小栗康平 手記
針穴
2025/03/03
佐伯剛さんの初めての写真展「かんながらの道」でトークに呼ばれて行って来た。二週間ほど前のことで、写真展は盛況のうちに終わったようだった。写真はすべて「針穴写真」である。折角だからこの手記で触れておこうと思っていたら、佐伯...
訂正とこころからのお詫び
2025/01/21
李恢成さんの著書を読み返えしてみようと書棚を漁っていたら、派手な装丁の本に目が留まった。大きな文字が表紙一杯に書かれている。「金石範 なぜ書きつづけてきたか なぜ沈黙してきたか 金時鐘」とあって、その全体がこの書籍のタイ...
哀悼
2025/01/20
朝九時ちょうどに携帯が鳴った。知らない番号だったのでそのままにしていたら、留守番電話に音声が残った。開いてみると、李恢成さんの次男からだった。父が一昨日の午後、病院で亡くなりました。今日、家族葬で小さく、火葬場へ行きます...
歴史の死を生きる
2024/12/26
『死の棘』の4Kレストアを終えた。今年は『伽倻子のために』『眠る男』に続けて『死の棘』まで三作品をやったことになる。旧作をいじってきただけの年になってしまったけれど、次の映画が進まないのだから致し方ない。レストアの作業は...
時間に触れる
2024/06/10
パソコンの奥に隠れていた文章が出てきた。何年か前のものだ。 「東の空を黒い雲が高々と覆っていて、月が雲間に隠れたり現れたりしている。動きが早い。西の空は一面に大きく夕焼けていて、薄雲を横に長く浮かせている。その下にさらに...
映画の、見つめ
2024/04/27
日本で初めて公開された監督作品を二本、渋谷の映画館で続けて見た。「ゴースト・トロピック」と「Here」。ベルギーの監督で名前はバス・ドゥヴォス。一九八三生まれとあったから、四十歳あたりで撮った映画である。 映画は買う人が...
4Kレストア版
2024/03/13
「眠る男」の「4Kレストア版」がようやく出来上がった。ようやくと言うのは、以前から企図していたものだったけれど、資金面で躓いていたからである。デジタル化には何百万円もの費用がかかる。それだけかけても旧作の上映でその分を取...
「小さな映画」
2024/02/20
昨年末に佐伯剛さんからメールをいただいた。忘年会と称する呑み会で前田英樹さんたちと会った二、三日後のことである。 「おはようございます。面白いことを発見しました。ビクトル・エリセは「ミツバチのささやき」が一九七三年、「エ...
映画の「自由」
2024/01/19
私はヴィム・ヴェンダースと同じ生年である。若くしてドイツニュージャーマンシネマの旗手の一人としてデビューして以来、今日まで数々の映画を残してきたヴェンダースと比べられるようなものは私にはなにもないが、年数だけは同じく数え...
生きていますよー
2023/12/22
駅の改札近くで人を待つらしい男の姿がある。遠くからその人を見て、あれ、あの方はもう亡くなっているのに、などと思ってしまう。度々とは言わないまでもそんなことが現実の視線の先で起こる。 夢の醒めぎわにいま会っていた人、思って...